伝統的な治水工法「霞堤」に対する価値は減災機能の受益者?負担者によって変わらないことを示唆
兵庫県立大学大学院地域資源マネジメント研究科博士後期課程2年(日本学術振興会特別研究員 DC1)の渡辺黎也 、いであ株式会社の幸福 智主査研究員、滋賀県立大学の瀧 健太郎教授、東京大学大学院農学生命科学研究科の吉田丈人教授(総合地球環境学研究所 客員教授)の研究グループは、伝統的な治水工法である「霞堤(かすみてい)」の維持に対して支払っても良いと思える金額(支払意思額)が、霞堤のもつ減災機能の受益者?負担者によって変わらないことを示唆しました。
霞堤とは、想定を超える大雨などにより、川や水路の水の量が増えた時に、堤防の切れ目から水を逃がし、被害を少なくするための仕組みです。河川水位の低減や破堤防止、貯留、氾濫流?内水の排除といった減災機能を有し、その後背地はコウノトリなどの湿地性生物の生息場として機能します。一方、河川水が氾濫した後、霞堤後背地の水田にはゴミが堆積するため、農作物被害や撤去費用の負担が問題視されています。つまり、地域によっては霞堤による減災機能の受益者(主に下流の居住者)と負担者(主に中流の居住者)という構図が生じる可能性があります。霞堤を維持?活用するためには、負担者を支援する仕組みが必要ですが、受益者と負担者のギャップを定量的に評価したうえで、具体的な経済措置を検討した研究はありませんでした。
調査の結果、仮説に反して霞堤の維持に対する支払意思額は居住地の河川区間による影響を受けていませんでした。本結果は、受益者?負担者にかかわらず、霞堤の維持に課税し、幅広い主体が費用負担することに対して一定の支持が得られることを示唆しています。一方で、 生態系保全への関心度が高い回答者ほど、支払意思額が高い傾向がみられました。また、本調査対象者については、霞堤を連続堤防に改修するシナリオよりも、霞堤の維持および環境保全型農業の取組を支援するシナリオに対して、支払意思額が高いことが示されました。したがって、霞堤の維持?活用に対する支持を得るためには、減災機能だけでなく、生態系保全への貢献を普及啓発することが重要であると考えられました。ただし、霞堤の受益者?負担者の関係は立地条件によって異なるため、各地域の実情に合わせた慎重な議論が必要です。
経済措置としては、基礎自治体が霞堤および後背地の水田を自然共生サイトに申請し、さらに地域再生計画において言及?KPIを設定することで、企業版ふるさと納税の獲得が可能となり、これを活用した損害保険の適用が可能になると考えられます。ただし、このためには霞堤を有する基礎自治体が自らの意思のもと、上位計画となるまち?ひと?しごと創生総合戦略や地域再生計画等を改訂する必要があります。
本研究の成果は災害科学に関する国際誌『International Journal of Disaster Risk Reduction』に 2024年5月10日から早期公開されました。
研究詳細
論文情報
- タイトル
Does willingness to pay for the traditional flood control measures kasumitei vary by river section of residential area?
(伝統的な治水工法「霞堤」に対する支払意思額は居住地の河川区間によって異なるか?) - 著者名
兵庫県立大学大学院地域資源マネジメント研究科 博士後期課程2年 渡辺黎也
いであ株式会社地域共創推進部 幸福智主査研究員
滋賀県立大学環境科学部 瀧健太郎教授
東京大学大学院農学生命科学研究科?総合地球環境学研究所 吉田丈人教授 - 雑誌?号?doi
International Journal of Disaster Risk Reduction
DOI:https://doi.org/10.1016/j.ijdrr.2024.104528
問い合わせ先
渡辺黎也(わたなべれいや)
兵庫県立大学大学院地域資源マネジメント研究科 博士後期課程2年
(日本学術振興会特別研究員 DC1)
TEL:0796-34-6079
E-mail:watanabe.reiya.sw@alumini.tsukuba.ac.jp
同時資料提供先
東京大学大学院農学生命科学研究科?農学部
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いであ株式会社
地域共創推進部 幸福智
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