兵庫県立大学自然?環境科学研究所
兵庫県立人と自然の博物館
耕作放棄地での但馬牛の放牧がチョウや花の多様性を回復
―農地保全と合わせて生態系保全の観点からも伝統的な放牧飼育に期待が高まる結果に―
概要
中濱直之(兵庫県立大学自然?環境科学研究所准教授 兼 兵庫県立人と自然の博物館主任研究員 )、濱野友 (兵庫県立大学環境人間学研究科大学院生)、藤本真里(兵庫県立大学自然?環境科学研究所教授 兼 兵庫県立人と自然の博物館主任研究員 )、衛藤彬史(兵庫県立人と自然の博物館研究員)らの研究グループは、兵庫県但馬地域で実施されている但馬牛の耕作放棄地放牧が、チョウや顕花植物の多様性の回復に貢献していることを解明しました。
但馬牛は、兵庫県但馬地域で伝統的に飼育されている黒毛和牛で、神戸牛や松阪牛の素牛です。初夏から秋にかけて伝統的に放牧がされてきました。近年は、年々増加する耕作放棄地において但馬牛を放牧することにより、餌の確保と耕作放棄地の有効利用の両立が図られています。こうした環境との共生や牛籍簿などの個体管理の取り組みが評価され、2023年には「人と牛が共生する美方地域の伝統的但馬牛飼育システム」として世界農業遺産に登録されています。
本研究では、但馬牛の耕作放棄地放牧が顕花植物やチョウの多様性に与える影響について評価しています。耕作放棄地では通常、外来植物の侵入や草丈の伸長により花の多様性が低下してしまい、それに伴いチョウやハチなどの花粉媒介昆虫も減少してしまうことが知られています。そのため、これらの顕花植物や花粉媒介昆虫の保全は国際的にも喫緊の課題でした。研究の結果、但馬牛の放牧地では顕花植物の種数と花数、チョウ類の種数と個体数いずれも耕作放棄地と比べて高い傾向にあることが分かりました。通常、家畜の放牧は低い密度であれば顕花植物やチョウの多様性を高める効果があるものの、放牧密度が高いと多様性がむしろ低下することが知られています。但馬牛の耕作放棄地放牧ではあまり放牧密度が高くないために生物多様性保全にも貢献していると考えられます。本研究は、但馬牛の放牧システムが生物多様性保全にも貢献していることを実証した重要な成果と言えます。また、但馬牛の放牧システムをほかの地域でも有効活用することで、近年増加する耕作放棄地において生物多様性保全を進めることができると期待されます。本研究成果は 2024年6月28日の日本時間0時に、日本生態学会国際誌「Ecological Research」の電子版に掲載されます。
詳細
論文情報
【タイトル】
Utilization of abandoned land as cattle grazing restores butterfly and flowering plant diversities in Japan
タイトル和訳 : 日本における牛の耕作放棄地放牧は顕花植物やチョウ類の多様性を回復させる
【著者】
Naoyuki Nakahama, Tomo Hamano, Mari Fujimoto, Akifumi Eto
中濱直之 (兵庫県立大学自然?環境科学研究所准教授 兼 兵庫県立人と自然の博物館主任研究員 )、濱野友 (兵庫県立大学環境人間学研究科大学院生 )、藤本真里 (兵庫県立大学自然?環境科学研究所教授 兼 兵庫県立人と自然の博物館主任研究員)、 衛藤彬史 (兵庫県立人と自然の博物館研究員 )
【雑誌?号?doi】
雑誌:Ecological Research
巻?号 : 未定
DOI: 10.1111/1440-1703.12494
問い合わせ先
兵庫県立大学自然?環境科学研究所 准教授
兵庫県立人と自然の博物館 主任研究員 中濵直之
TEL:079-559-2002 E-mail:nakahama@hitohaku.jp
同時資料提供先
(兵庫県立人と自然の博物館より)三田市政クラブ